そして火曜日。

　ガラッ。

「いらっしゃいませー…あっ、タツミくん！　来た来た！」

　私の勤務が終わる22時手前、【きたいわ屋】の引き戸を開けたのはタツミくん。

「あ…おじゃまします…」

　おずおずとカウンターの奥の席に座るタツミくんに、ハジメちゃんが声を掛ける。

「よ。久しぶりだね。でも、あんまり久しぶりって感じでもないんだよな。勇実がしょっちゅう、キミの話するからなぁ(笑)」

「あ、ハイ…俺もです。しょっちゅう、ハジメさんの話聞いてます(笑)
　…っていうか…なんかすんません、こんな事になっちゃって…
　本当にご迷惑じゃないんですか？」

　そう、火・金の新曲の打ち合わせを【きたいわ屋】でする事にしたのだ。タツミくんに路上を早めに切り上げて貰って、勤務の終えた私と【きたいわ屋】で綿密な打ち合わせ、という構図。

「いいっていいって。ワガママこいたのは勇実の方だろ。
　勇実オマエ、タツミくんに気ィ遣わせてどーすんのよ」

「えぇーっ、ナイスアイデアだと思うんだけど。ダメ？」

「ダメじゃねぇけど。つーか、もう許可しちゃったし。隅の方で静かにやってくれりゃ、営業的にはなんの問題もないさ」

「えっ、でもハジメちゃん、多分ギター弾かなきゃだと思うんだけど。ねぇタツミくん？」

「ちょっ、イッサ、俺、そこまで図々しくなれない。ハジメさん、なんかもう、ほんとすんません」

　珍しく、タツミくんが慌てふためく。

「ぎゃはは。勇実には敵わねぇよな。いーよ、金曜なら。常連のおっさん達なら、気ィ遣わねぇで済むだろ。それでいい？」

「やったぁ。ありがと、ハジメちゃん。スキー」

「ばっ…オマエなぁ、だからもう…こんなやつで、ほんっとゴメン」

　今度はハジメちゃんがタツミくんに謝ってる。

「ふっ。大丈夫です。わりといつもの事だから(笑)」

「だーよなー(笑)」

　なんか、私の悪口で盛り上がってない？　ひど。

「ま、あんま遅くならない程度にな。あ、コレ俺の差し入れ。よかったら食べて」

　そう言ってハジメちゃんは、カウンターにゴトリとどんぶりを置いた。味噌ラーメン、ふたつ。

「あ、タツミくん良かったね。ハジメちゃん、タツミくんにも味噌作ってくれたよ」

「え？　ほんとに？　いいんですか？　だってこれ、イッサ限定なんでしょ」

「タツミくん…キミ、ほんとに気ィ遣いだね。
　いいから！　男は黙って食っとけ！」

　ハジメちゃんがピシャリと言うと、タツミくんは目を丸くして、でもすぐに笑顔になって、

「いただきます」

　手を合わせてラーメンをすすりだした。

　私もエプロンと三角巾を取っ払って、タツミくんの隣に座った。

「うまっ。俺、好き。この味噌も。ハジメさんも。イッサはいいね、独り占めじゃん」

　タツミくんのこのつぶやきに、ハジメちゃんがむせた。

「やべぇな、タツミくん、いいヤツじゃん」

「あははぁ。ハジメちゃん、照れてる」

「うるせー。オマエも早く食べろ」

「はぁい(笑)」

　私達のそんなやりとりを聞いて、タツミくんは目を伏せて笑いながらラーメンをすすった。





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