traverse

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「あのさ。実は、新曲を作ろうと思ってて」

「え、そーなの? どんなの?」

「こないだのナイター、楽しかったからさ。その時の気持ちを歌にしたくて」

「うんうん! いいんじゃない? おもしろそー!」

「でしょ? でね、出来上がったらさ、イッサと一緒に歌いたい」

「うんうん! …はい!?」

「歌詞も、一緒に考えてほしい」

「…はあーー!?」

 タツミくんの、ぶっ飛んだ提案。

 頭ん中、真っ白になっちゃったよ、私。

「…ウソでしょ?」

「本気~(笑)」

 タツミくんは笑顔で言うけど、そんな簡単な事じゃないでしょ。

「いやいやいやいや…それオカシイから…
 ムリだよ、突然過ぎる。歌詞なんて考えられないし、私オンチだし」

「突然でもないよ、球場にいる時から…ずっと考えてて」

 あ、そういえば、ボンヤリ考え事をしていたタツミくん。あの時から?

「イッサは音痴じゃないよ? 声もよく通るし。
 誰かに言われた?」

「え…だって…前にさ、○○の【△△】一緒に歌ったでしょ。あの時に聴いてたカップルさんに、素敵なハーモニーって言われた。私、ハモってるツモリなかったのにぃ」

「あぁ、あの時。ハモったの、俺だよ。主旋律はイッサ。気付かなかった?」

「え、そーだったの? なぁんだー。
 …いやいや! だからってねぇ」

「へーきへーき。俺さ、お盆の時期に実家帰るから、その前に披露したいんだよね」

「えっ? じゃーあんまり時間ないんじゃないの」

「でしょ? だからイッサも手伝ってよ(笑) ハイ決まりね」

「ちょっとー! まだやるって言ってませんけど!?」

 タツミくんのこの強引さ、最近は鳴りを潜めていたと思ったのに。

「またなんか、楽しそうに盛り上がってるネ(笑)
 はいイサミちゃん、モーニング食べて、彼と頑張ってネ」

 マスターがニコニコしながら、私にモーニングプレートを渡してきた。

 あー…もう。とんでもないことになったよ。

 でも。

 ちょっとワクワク。





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