traverse
65 /168ページ
月曜日。
いつものように、【喫茶KOUJI】へ モーニングを食べに行く。
お店の中に入る前に、大きな窓から店内を見た。
カウンターに、タツミくんの背中。
そういえば、タツミくんとまともに顔を合わせるのはナイター以来。
まだ1週間しか経ってないけれど、ずいぶん久しぶりな気がした。
金曜日に声を掛けずに帰った事、何か言われるかな? それがちょっと、憂鬱だった。
けど、そうもいかない。鳴いてるお腹を満たさないと(笑)
カラカラン♪
「いらっしゃい、イサミちゃん」
マスターが顔を上げる。それと同時に、タツミくんがカウンターの丸イスをくるっと1回転させてこちらを向く。
「ぷっ。やだ、タツミくん。ナニやってんの」
タツミくんがベーコンをムシャムシャとくわえていた。ベーコンがスルスルとタツミくんの口へ吸い込まれて、ゴックンと大げさに音を立てた。
その仕草が面白い。犬みたい(笑)
「おはよ、イッサ。
ねぇ、金曜日、なんで先帰っちゃったの」
早速きた。私は、タツミくんの隣に座りながら言った。
「だって…タツミくんの歌聴いてくれるお客さんが、だんだん増えてきたじゃない?
…ジャマになるかなって思ったんだもん」
「え? そんな事思ってたの?」
タツミくんが目を丸くした。
「気にしなくていーのに」
「気にしますよー。もうね、タツミくんはファンが付くくらい、遠くに行っちゃったのね。一般人の私は、これからは遠くの方で見守るからね」
私のワザとらしい芝居を見て、今度はタツミくんがぷっと吹きだした。
「ナニを言ってんだか。まぁ…イッサがそうしたいなら、いいけどさ。
俺、一度もジャマって思った事ないからね?」
タツミくんの言葉は嬉しいけど、私はファンの子に言われちゃったんだよ。
でもそれは、言ってはいけない。タツミくんは、知らなくていい。
これからは、タツミくんとゆっくりお喋り出来るのは、この【喫茶KOUJI】に来た時だけになるのかな。
寂しいけど、仕方のない事だと思った。
「ねぇ、それよりちょっと、なんでまた、私が来る前にモーニング出ちゃってるのよ。マスター?」
「ん? だって、彼がお腹ペコペコだって言うからさ。イサミちゃん待ってたら、飢え死にしそうな勢いだったしさ」
「もー。月曜のモーニングは私が来てからっていうしきたりは、どこへ行っちゃったの?」
「フフ、ごめん、イッサ(笑)」
「ほんとだよ、いつの間にかマスターの心を掴んじゃってさ」
「こらこら、イサミちゃんの口からそんなアヤシイ言葉を出さないで(笑)
オジサンはね、どっちの味方でもあるんだよ。キミたちふたり、セットでお気に入りなの(笑)
さ、イサミちゃんのモーニングを用意しますかぁ」
そう言って、マスターは奥へ引っ込んでいった。
ナニソレ。ふたりセットって(笑)
「ねぇイッサ。ちょっと話したい事があるんだけど。いい?」
マスターの言葉は全く気に留めてないみたい、すっかり食べ終えたタツミくんが、食後のコーヒーをすすりながら言った。
え、なんだろう。
タツミくんの真剣な眼差しに息をのみながら、タツミくんの次の言葉を待った。
…