traverse
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翌日の火曜日の【きたいわ屋】の勤務後、いつもの場所にタツミくんはいなかった。
やっぱり風邪を引いちゃったのかな?
何となく気になって、タツミくんにメールを飛ばす。
もし本当に風邪で寝込んでいたら、電話じゃ迷惑だろうから。
【今日はいないんだね。もしかして、調子悪い?】
送信。自転車に跨がったまま、しばらくその場所にいた。
すると、わりとすぐにタツミくんから返信が来た。
【喉の調子がイマイチなので、念の為のお休みです。仕事には行ったから、大丈夫。】
どうやら寝込んでいるわけではないみたい、よかった。
【喉には大根ハチミツだよ。知ってる? 角切りの大根とハチミツを瓶にいっぱい詰めるの。一日置いて、ハチミツをお湯に溶かして飲むといいんだよ。大根をそのままポリポリ食べてもいいよ。】
送信。またすぐ、返信。
【へえぇ。それ、おばあちゃんの知恵?】
興味津々のタツミくんの顔が浮かぶよう。
【うん。まぁ、試してみたかったら、やってみて。】
【りょーかい。】
クスクス笑いながら、私はケータイをカバンにしまって、ペダルに足を踏みしめた。
ふと、視線を感じた。
「?」
辺りを見回すと、少し離れた所に、ストレートの茶髪の綺麗な女の子が立っていて、私をじっと見つめていた。
…ギラッとした、眼差し。
私と目が合うと、その子はふいっと踵を返して、向こうへ行ってしまった。
…何だったのかな?
私はとくに気に留めず、カッシャンカッシャンとペダルを漕ぎだした。
金曜日にはまた、タツミくんの歌声が聴けるだろう。
いつもより綺麗な声を出せてたら、私のアドバイスのおかげだと、恩を着せてやろうかな?(笑)
…