traverse

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 (★)

「えっ」

 なんのコト? と考える間がなかった。

 突然の、甘い出来事。

 ハジメちゃんのシャツの上から…胸に、右手を置かれた。

 ゴツゴツの長い指に、ゆっくり力が入ると、全身に甘い痺れが走った。

「あ…? や…っ、ハジメ…」

 自分の声に、ビックリした。普段の声のトーンじゃない、震えて、高くて、掠れ声。

 それを聞くとハジメちゃんは、シャツの上でゆっくり…円を描くように、私の胸を揉みしだいた。

 そうしながら…俯く私の顎を持ち上げて、唇を重ねる。

「ふ…ぅん…んん…」

 ハジメちゃん。

 ハジメちゃん。

 ハジメちゃん。

 心の中で何度も連呼する。

 ハジメちゃんが与える刺激に頭がボンヤリする。心臓がドクドクとうるさく叩く。

「…勇実…」

「…ゃ…」

 キスの合間にこぼれる、ハジメちゃんの声。はあっと息をつくとすぐに、舌が絡み合う。

 ハジメちゃんにも、見られちゃったのかなぁ…

 自分の無防備さが、情けない…

 ハジメちゃん…

 今、すっごい…イケナイコトしてる…

 唇と胸の快感に、涙がにじんだ…



「ハジメー? まだかー? お客さん入ってきてるぞ、早く来てくれよー」



 大将の声が飛ぶ。

 惜しむように、私達は体を離した。

「…ごめん、勇実…」

「…うん…」

「タツミくんが…とか思ったら…あー、だせぇな…ヤキモチだよ…」

「…うん…」

「…恐かったよな? …ごめんな…」

「…ううん…ドキドキしたけど…大丈夫…スキだもん…」

「そっか…あーっ…ばか、ナニついでみたいにサラッと言ってんだよ…俺の方が…好きだっつーの…
 …なぁ…もう…男と二人で出掛けたりするな…タツミくんでも…俺の気持ちが…もたねぇわ…」

「…んっ…わか…った…ごめんね…」

「いいよ…もう…勇実…カワイイ…」

 最後に軽く唇を重ねて、ハジメちゃんは下に降りていった。

 少し後から私も下に降りていって、ハジメちゃんと大将に挨拶してから【きたいわ屋】を出た。



 タツミくんは、ハジメちゃんがあんな風に思うって事、お見通しだった?

 タツミくんがハジメちゃんに遠慮していたんだって、情けないけど今やっと理解した。



 ごめんねタツミくん。私やっぱり、恋愛ビギナーだね。





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【traverse】中間雑談・5





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