traverse
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わけがわからず、タツミくんのボディバッグを抱きしめてコンビニの入口の脇に立っていると、タツミくんがすぐに出てきた。
手にはビニ傘と、バスタオル。
バスタオルを私の頭からパサッと掛けて、私からボディバッグを取って、ポンッと傘を開いた。
「え、タツミくん? いいよ、タツミくんが先に使ってよ」
バスタオルを剥がそうとすると、
「いいから!」
タツミくんの大きい声。目を見開くと、タツミくんがハッとなって、
「ごめ…とにかく、いいから。イッサが使ってて。頭拭いて、肩から掛けてて。行くよ。早く…行こう」
一緒の傘だから先に行ってしまう事はないけど、また、早歩き。
タツミくんの突然の態度がわからなくて、ボディバッグを摘まむのもためらわれて、タツミくんの速度に必死についていく。
「まさか、雨にふられるなんてなぁ」
「うん」
「通り雨かなぁ、すぐ止むといいな」
「うん」
タツミくんのひとりごと、私に向けられてないって分かってるのに、相づちを打ってしまう。
傘を打ちつける雨音がこんなにもうるさいのに、タツミくんの声はよく通る。それが、この時ばかりはむなしさを感じた。
そうしている内に、もう商店街の入口に着いた。
「はい」
タツミくんが、傘を私に持たせる。
「え? ダメだよ、タツミくんが買った物なのに。タツミくん、濡れて帰るつもり? 風邪ひいちゃうよ」
「いいの。イッサが持って。傘も。タオルも。俺はもう、そこ降りちゃえば地下鉄だから、濡れないよ」
「そうだけど…」
「あのねえ…イッサ」
煮え切らない様子の私に、ふぅと息をついて目を伏せたタツミくん、こう続けた。
「そりゃあさ、天気には勝てないけどさ…
もうコドモじゃないんだからさ…
…見えてるから」
ナニを言ってるの? と思ったすぐ後に、タツミくんが言いたい事を瞬時に理解して、ギュッとバスタオルの中で両腕をクロスさせた。
私の今日の服、淡い水色のストライプのカットシャツ。生地は厚めだけど、雨で肌に張りついて…透けていたらしい。
「ちょっとっ…もう…」
私が言いかけると、タツミくんが被せてきた。
「そういうの、ハジメさんの前だけにしてよ。
…でも、そうするにしても…もう少し…
…色気のあるやつにしたら?」
「なっ…! ばかっ…!」
「あはは。じゃーね。気をつけて行きなよ」
言いたいだけ言って、タツミくんは地下鉄の駅へ降りていってしまった。
「タツミのアホ! セクハラー!」
私の声は雨音に掻き消された。きっとタツミくんには届いていない。
私は商店街のメインストリートに入り、【きたいわ屋】までの道すがら、ぶつぶつ考えた。
ボディバッグを持たせたのは、他の人から隠せるように?
早歩きだったのは、私の無頓着さに呆れたから?
ひと言余計なのは、まぁ、いつものことか。
色気のあるの、買っといたほうがいいのかな。
とにかくタツミくんのせいで、いらない事までごっちゃ混ぜに考えた。
それの、ほんの片隅で、いつものタツミくんに戻ってホッとしている自分も…いた。
…