traverse

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 平日だけど、世間は学校の夏休みに入っているからか、お客さんはそれなりにいて賑やか。

 私達の席は、レフトスタンドのわりと前の方の席だった。とはいえ、選手達は豆粒ほどの大きさ。かろうじてレフトの選手の背番号が見える位の距離。まあ、スクリーンがあるから、全然不便じゃない。

 18時ピッタリに試合開始がなされて、応援席の熱気が一気に膨らんだ。

「ねぇタツミくん、ここって、△△チームの応援だったんだね」

「ん? イッサ、○○チームの応援したかった?」

「まぁ、そりゃ、この街のチームだし。全然詳しくないけどさ」

「フフ。まぁ今回は、応援するって事だけに力を入れたらどう?
 かっとばせー、かっとばせー、○・○・○・○!」

 応援団のコールに合わせて、メガホンを叩きながら声を飛ばすタツミくん。

 よく通る声、応援団の人に「にーちゃんイイ声出してるね! 皆さんも彼に負けずに!」なんて言われてた(笑)

 △△チームが守備の間に、買っておいたシューマイ弁当を食べて、ちょうど飲み物の売り子も回って来てたので購入した。

「へへへ。楽しいね、こういうの」

「そうでしょ。昔も今も、変わらないなぁ」

「タツミくん、ここに詳しそうだけど…来た事あったの? むかーし(笑)」

「ん? そ、むかーしね(笑)
 小学生の時。父さんと…姉ちゃんと…ここに来た事あって。
 そんな、詳しくないよ。一回だけだもん。でも、鮮明に覚えてるんだよなぁ。
 あの時も、レフトスタンドだったなぁ。もう少し、後ろの方だったけどね」

「そっかぁ。じゃ、今みたいに、大声出してたんだね(笑)」

「うん(笑)」

 そんなたわいもない話をしながら、ゲームの行方を見守る。

 私もタツミくんとおんなじように、気合いを込めて応援したら、「皆さんもあのおねーさんに負けずに!」と応援団の人に言われた(苦笑)

 1回だけ、ホームランボールがこちらの方に飛んできて、捕れちゃうかも!? と二人して手を伸ばしたけれど届かず、何列か後ろの男の子が拾って、ガッツポーズをしていた。

「うーん、残念! もうちょっとだったのに」

「イッサってば、大人げなーい(笑)」

「タツミくんこそ! こーんなに必死に手ぇ伸ばしちゃって、大人げなーい(笑)」

「ふっ。あはは!」

 お腹を抱えて笑い合う私達。

 このホームランが決定打となって、私達が応援していた△△チームが勝者となった。





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