traverse

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 むー。野球、誰か一緒に行ってくれるかなぁ。

 月曜の朝、【喫茶KOUJI】のカウンター席で、声を掛けてみようと思う専門学校の友達を何人か思い浮かべる。

 私の隣には、食後のコーヒーをたしなむタツミくん。私の定位置がいつの間にか、あの窓際の席じゃなくなっていた。

「また、ナニがそんなに悩ましいの(笑)」

 タツミくんが笑いながら聞く。

「悩ましいって(笑) まぁ、悩んでるけどさ。ナイターのチケット貰ったんだけどね、まだ一緒に行ってくれる人を見つけてなくて。今週の平日いっぱいだから、ちょっと急がないと」

「ふーん。あれ、ハジメさんは?」

「それがね、今週の休みはハジメちゃん用事があって会えないの。一緒に行きたかったんだけどね」

「ふーん、そう」

 そう言って、タツミくんはうーんと考え込んでしまった。どうしたんだろ? と見ていたら、

「それ…俺が行ってもいい?」

 タツミくんが、カップに口をつけたままふーっと息をついてそう言った。

「え? タツミくん、野球好き?」

「ん? 野球がというか…思いきり大声で応援するのって、いいじゃん? それに、スタジアムの雰囲気も好き」

「そっかぁ。じゃあ、いつなら行ける? さっきも言ったけど、今週の平日じゃないとダメなんだけど」

「今日」

「へ?」

「今日じゃダメ?」

「いや、大丈夫だけど(笑) …急だね?(笑)」

「うん(笑)」

 タツミくんの受け答えがなんかおかしくて、話してる途中で笑いが止まらなくなっちゃって、それを見てタツミくんも、笑っちゃってた。

「あ、でも、ちゃんとハジメさんの了解を得てよ? いくら友達だからって、他の男と一緒だなんて知ったら、いい気はしないだろうから」

「え? そう? ハジメちゃんは大丈夫だと思うけど。だって、友達と行ってこいって言ったよ?」

「だからさぁ…あーもう…イッサは恋愛ビギナーだからなぁ。
 まぁいいや。とにかく、ハジメさんがダメって言ったら、俺は行かないから。後で連絡して。あ、そういえば携番まだ教えてなかったっけ…ハイ、これ俺の番号だから」

 タツミくんはそう言いながら、作詞の手帳に自分の番号をサラサラと書いて、その部分を破り取って私に渡した。

「マスターごちそうさま。じゃーイッサ、ほんとにちゃんと、ハジメさんに聞いてよね?」

「うん分かったってば、しつこいなぁ」

 何度も私に念を押して、タツミくんは【喫茶KOUJI】を出ていった。

「ふふふ、恋愛ビギナーだって。ウマイ事言うね、彼(笑)」

「まったくだよ、もう。タツミくんは私をいじり過ぎだよ」

「そんな事言って、実はそんなに怒ってないんでしょ?(笑)」

「まぁ…そうなんだけどね(笑)」

 そう、最近はもう、タツミくんのからかいには慣れた。その中に、決して意地悪ではない、タツミくんなりのエールが込められているのを知ったから。

 コーヒーを飲みながら、さっき渡されたタツミくんの番号を、携帯に登録した。

「んー、やっぱり、若いっていいねぇ(笑)」

 また言ってる。最近のマスターはそればっか。お気に入りの言葉なのかな?

 マスターはニコニコしながら、タツミくんの食器たちを片付けた。





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