traverse
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あー、あれ? あの後私、どうやって帰ってきたっけ?
そうだ、ハジメちゃんはバイクで来たから、駅でバイバイしたんだった。
駅までの道、楽チンなエスカレーターのある方に行って、たわいもない話をしてた…んだと思う。全然頭に入ってこなかったけど。
「じゃ、また明日。店でな」
駅に着いて、ハジメちゃんはそう言って駐輪場の方へ消えていった。
私、ハジメちゃんに告白されちゃった。
私、まだちゃんと返事してないよ。
私とハジメちゃん、付き合うの?
ハジメちゃんの事は、キライじゃない。
からかってばかりだけど、なんだかんだで優しいし、話は尽きないし、退屈しない。
その時間がこれからも続くのなら、いいのかも。
けど。
けど、なんだろう。ナニが、私の気持ちにブレーキをかけているんだろう。
「うんいいよ、付き合おっか」って、なんですぐに出なかったんだろう。ハジメちゃんなら、きっと大丈夫だろうに。
モヤモヤしたまま、あっという間に翌日の【きたいわ屋】の勤務時間になった。
お店の引戸を開けると、
「おー、勇実ぃ。おつかれ」
ハジメちゃんがいつもの様子で、カウンターの向こうから声を掛けた。
それにちょっぴりホッとした私、「おつかれ、ハジメちゃん」と返して、開店準備に取り掛かった。
それから外にのれんを掛けるまで、ずっと無言だった。私も、ハジメちゃんも、何故か大将も。私とハジメちゃんの雰囲気がいつもと違う事、気付いたのかな。
のれんを持って外に出ようとした時、ハジメちゃんがカウンターからこちらに出てきて、私の傍に来た。
「あー、勇実」
いつもの、勇実ぃ。じゃない。
「昨日の、事だけどさ」
「…うん」
「返事…まだ聞いてないんだけど」
「…うん」
「…困ってる? …だよなあ。急に言われたら、なあ。
あ、急いでくれってわけじゃないんだ。
ただ…知っててもらいたくて…
もし…イヤって気持ちがないんなら…
…考えてくんないか?
いやホントに、ゆっくりでいいからな?」
ハジメちゃんが、すごく慎重に言葉を選んで喋ってる。
そんな一生懸命なハジメちゃんの姿に、ふっと笑みがこぼれた。
「あのね…私も、ハジメちゃんといるとすごく楽しいよ。
これからも…こうしていられるのなら…
…いいかなって…」
私の言葉に、ハジメちゃんが息を飲んだ。
「えっ? ほんと? まじ? いいの?」
「うん… ふふっ、ハジメちゃん、聞き返し過ぎ。
じゃあ…よろしくお願いします」
ペコリと頭を下げると、ハジメちゃんが「よっし」と小さくガッツポーズをした。なんかカワイイ(笑)
「ということで、オヤジ、そんなワケなので…ヨロシク」
ここまでを、目を丸くしながら黙って見ていた大将が、
「え? イサミちゃんが? うちのハジメと? え? ほんと?
イサミちゃん、こんなのでいいの? えーっ」
さすが親子、おんなじ反応してる(笑)
ビックリしながら、でも嬉しそうに、ニコニコと私達を見ていた。
きっと…大丈夫だよね。
…