「じゃー、○○の【□□】。女の歌だけど、いけるの？　くくくっ」

「りょーかいです」

　なんかこの人達、冷やかしてるだけ？　とか思ったけど、タツミくんは事も無げに、リクエストされた女性シンガーの曲を見事に歌い上げた。

　これには、彼らもぐうの音が出なかったようで、終わった後、ぎこちない拍手をタツミくんに送って、そそくさとこの場を離れた。

　タツミくんの歌声は中性的だから、男性の曲でも、女性の曲でも、どちらでも大丈夫なんだなー。

　私はしゃがんで両手で頬杖をついたまま、そんな事をぼんやり考えた。

「まあとにかくね、イッサがしたいようにしたら、いいよ。彼…ハジメさん、イッサの気持ちだけで嬉しいと思うし」

「そう？　うーん、そうかなぁ。じゃー、もう少し自分で考えてみようかなぁ」

「…なんかさぁ、イッサ、色々、鈍ちんだね。隙あり過ぎだし」

「？」

「見えてるから」

　タツミくんが、自分の脚の付け根をペチペチと叩いた。

「…うわぁっ！！」

　一瞬分からなくて、でも次の瞬間、タツミくんの言わんとしている事が分かって、悲鳴と共にバッと立ち上がった。

　今日の私の服、薄い生地のゆったりキュロット。無防備にしゃがみこんじゃって、私のばか。

　…見えちゃうに決まってんじゃん。

「あの人達、イッサの事チラチラ見てたからね。危ないから、ちゃんとしてよ？　もうコドモじゃないんだから」

　タツミくんの言い方が、なんか腹立つ！

　後ろ手にキュロットを押さえながら、私はタツミくんを睨んだ。

「…見た？」

「うん？　…見てない見てない。
　ピンクのなんか、全然見てない」

「もぉーー！　ばかぁ！！」

　一刻も早くそこから去りたくて、自転車にガタガタと跨がって、バイバイも言わずに超高速でペダルを漕いだ。

　顔が熱い。

　ばかばか、タツミくんのばか。私の…おおばか。もっとオトナになろう。





…