traverse
21/168ページ
カウンター越しの図書館のスタッフさんに、同時に申込書を差し出して、カードが出来上がるまで、そのまま二人で並んでいた。
「アナタねぇ…ナニよ、イッサって。こないだのラーメンの歌も。ひど。失礼極まりない」
ヒソヒソ声で、タツミくんを睨みつける。
「フフッ…ゴメン…昔、家でイッサって犬飼ってて…
なんかアンタ、犬っぽい…あの、ピザトーストくわえてた時が特に…くくっ。
あ、アンタ、あの歌聞こえてたんだ? …くくっ」
小刻みに肩を震わせるタツミくん。もう、いちいち笑い過ぎ!
顔をしかめていると、タツミくんが人差し指で私の眉間をちょいちょい触ってきた。
「なっ」
タツミくんの突然の行動にビックリする。
タツミくんもハッとなって、素早く手を引っ込めた。
「シワ、寄せすぎ」
「大きなお世話。誰のせいと思ってるの」
「ねぇ…ラーメン、ほんとに美味しそうな匂いだったんだ。どこのラーメン屋?」
話がポンポン飛ぶなぁ。こっちの様子なんて、ちっとも気に留めないのね。
でも…探るような、大きな瞳、吸い込まれそう。そっちの方が、犬っぽいじゃん。
私はカバンの中をゴソゴソ漁って、1枚の紙切れをタツミくんの手に乗せた。
【きたいわ屋】の割引券。
「あげる。好きな時に行けば?」
「…くれるの? …ありがと」
ふっと目を細めて、タツミくんは言った。 今度は静かな笑顔。色んな笑顔があるんだな。
そうこうしている内に、私のカードが先に出来上がった。
そのままそこで貸出の受付をして、無事本を借りる事が出来た。
私は立ち上がって…迷ったけど、タツミくんに一言掛けてから帰ろうと思った。
「じゃーね、タツミ…くん」
タツミくんは、え? という顔を向けた。年下にくん付けされるの、イヤだったかな?
でもタツミくんは、タツミくんって呼ぶのが一番しっくりくる気がした。年上であっても。
同じ誕生日だからかな、親近感が沸くんだ。
すると、タツミくんが先ほどの静かな笑顔で、
「またね、イッサ(笑)」
って言った。笑いを含んで。
「イッサってゆーな!」
静かな図書館で私の声が響いて、他の人達が一斉に私を振り返ったから、タツミくんの肩をバシッと叩いてから、一目散に図書館を飛び出した。
ばか。ばか。ばか。
タツミくんのばか。
私の…おおばか。消えたい(泣)
…