なっ。なっ。なっ。

　覚えてたの？　あの時も。あの時も。

　そうだ、私、この人に文句言うんだった。

　思い出したはいいけど、ここは図書館、大きな声は出せない。

「～～～っ」

　声にならない声をあげて悶えている私をスルーして、タツミくんはカードの申込書をさっさと埋めていく。

　後藤樹深。

　23歳。

　そのつもりはなかったのに、目に入ってしまったから、つい見入ってしまう。

　タツミくんはまた目だけこちらに向けて、

「ナニ？」

　と言った。

「えっ？　いや…タツミっていうんだね」

「…よく読めたね」

「んっ？」

「まだフリガナ書いてないのに…一発で読まれたの、初めてかも」

　また紙に視線を戻して、書くのを続けた。

　知ってるよー。あの、ハッピーバースデーの歌、聴いてたから。なんて、言えない。

「書かないの？」

「あっ、書くよ…」

　タツミくんに言われて、慌てて手を動かした。

　小山勇実。21歳。5月25日生。

「ん…コヤマ…ユミ？」

　今度はタツミくんが、私の申込書を横から覗き込んだ。

「ブブーッ。違います。って、見ないで。プライバシーの侵害です」

「そっちが先に見てたクセに…
　21なんだ？　もっと下かと思った…
　なにげに同じ誕生日だし…」

　ボソボソと言ってるけれど、ほんとよく通る声。

　同じ誕生日な事も知ってましたよーだ。でもこれも、何故だか言いたくなかった。

　最後に、自分の名前のフリガナの欄を埋めた。

　コヤマイサミ。

「イサミ？」

　全部埋め終わって、タツミくんを見た。イサミと読むと分かって、どうする？　別に何か求めてるわけじゃないけれど、何か言うかなと思って、じっと見つめた。



「うん…アンタ、なんか、イッサって感じがする(笑)」



　そう言って、タツミくんは肩を震わせた。

　ナニソレ！

　この人、色々失礼だ！





…