traverse

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 木曜日。

 学校が終わった後、商店街の大きい古本屋に寄った。ここは、私が小さい時から変わらずある。

 手頃な整体の参考書がないか、探しに来た。けれど、ここにはなさそうで、とぼとぼと歩く。

 すると、漫画本コーナーに見覚えのある立ち姿が。

「ハジメちゃん!」

「ん? おー、勇実ぃ」

 私の声に反応して、一瞬ちょっとキョロキョロと見回したハジメちゃん。

 いつもの、頭にタオル巻いてエプロン姿、じゃなくて、青系のチェック柄のシャツにグレーのジーンズ。少し茶色の天パが目立つ。ハジメちゃんの私服姿はいつ見ても、慣れない(笑)

「なんでこんなトコにいるんだ? あ、オマエも立ち読みしに来た?(笑)」

「ちっがうよ。学校の帰りだよ。ハジメちゃんじゃあるまいし。折角の定休日に、なにこの辺うろついてんの。早くカノジョ作ってデートに行きなさいよ」

「ばっ。なんでそんなコト、勇実に言われなきゃならねーの。あー、俺、傷ついた。あぁ~」

 わざとらしく、胸の辺りを片手で鷲掴みするハジメちゃん。

「あーあーあー、ゴメンナサイゴメンナサイ。ハジメちゃんに拗ねられると、味噌ラーメン食べられなくなっちゃうから、許して?」

 ニーッと笑って許しを乞う。

 そんな私を見て、ハジメちゃんははぁ~っと溜め息をついて、分かった分かったと肩をすくめた。

「立ち読みだけじゃ悪いから、ちゃんと何か買ってから帰るさ。オマエは?」

「整体の参考書を探しに。今すぐに欲しいわけじゃないんだけど。あれば買おうかなぁ、と。ここには無さそう」

「ふぅん。図書館は?」

「図書館?」

「山の上の図書館。駅から左へ上がっていく坂道、あるだろ。その先にあるんだよ。てか、オマエ、知らんの? 昔この辺住んでたんだろ?」

「住んでたわけじゃないよ。お父さんの故郷だから、小さい頃に時々連れてきて貰ってただけ。詳しいのはこの商店街だけだよ。
 図書館かぁ。うん、行ってみようかな。ハジメちゃん、ありがと」

「おー。図書館、でかいからな。迷子になんなよ? くくくっ」

「失礼なっ。平気ですよーだっ。じゃーねっ、バイバイ!」

「おー。また明日な。サボんないで、ちゃんと店来いよなー(笑)」

 私がプンスカ怒ってるのに全く気に留めないで、うひゃひゃと笑いながら手をヒラヒラと振る、ハジメちゃん。

 そんなだから、いつの間にか私も、怒るのが馬鹿馬鹿しくなって、最後には笑ってしまう。ハジメちゃんといると、いい感じに力が抜ける。



 話している間、ハジメちゃんからラーメンの香りが鼻をくすぐって、あ、【きたいわ屋】の匂いだって思った。

 同時に、一昨日のギターのタツミくんのラーメンの歌を思い出して、やっぱり…そんなに匂いくっついてたのかな? と、ちょっと複雑な心境になった。





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