翌朝6時きっかりに、ホテルを出た。

　冬の朝、まだ白んでさえいない空の下を、私とタツミくんは駅へ向かってゆっくり歩いた。

　手は、指を絡め合って恋人繋ぎ。もうすぐ、離さなきゃならない。



　タツミくんは、ホームまで一緒についてきてくれた。

　下り線だから、ホームには私達以外いなかった。

　始発までまだ、少し時間がある。

　自販機で缶コーヒーを買って、ベンチで二人で飲んだ。

「怒られない？　…朝帰り」

「んー…ふふ、多分ヘーキ」

「帰ったら、ちゃんと寝てよね」

「タツミくんも、飛行機でちゃんと寝てね？」

「りょーかい。
　…あ、始発来た」

　発車時間の数分前に、電車がホームに入ってきた。

「…ほら、乗りな、寒いから」

「…うん」

　電車に足を乗り入れる。まだ、電車は発車しない。ドアは開かれたまま。電車とホームの境目で、私達はまだ手を離せない。



【まもなく、○番線から電車が発車いたします──】



「タツミくん、手、離さないと」

「分かってる」

　絡めた指がゆっくりほどかれて、完全に離れた。

　その時。

　タツミくんが、私のジャケットの袖をクイッと引っ張って…



　唇を重ねた



　プルルルと発車を知らせる音と、【閉まるドアにご注意下さい】というアナウンスが流れている間に、



「イサミ。ダイスキ。あいしてる。



　…いってきます」



　唇をくっつけたまま、タツミくんが言った。



「…ッ、タツミくん！　いってらっしゃい！」



　タツミくんが一歩下がって、私がそう叫んだと同時に、ドアは閉まって、電車はゆっくり発車した。

　ドアに張りついて、ホームを見た。タツミくんがどんどん小さくなって、見えなくなった。駅も、見えなくなった。



　私はドアのすぐ横の手すりにうずくまって、目を臥せった。



　ポロポロと…涙が落ちる。



【俺の事、忘れさせない。】



　忘れない。



　タツミくんの体温。



　タツミくんの感触。



　私に刻み込んでくれた全てのコト。



　タツミくん、ダイスキ。



　タツミくん、あいしてる。



　私もがんばるから。



　いってらっしゃい。





※よければこちらもどうぞ
→【traverse】中間雑談・12





…