traverse
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(★)
私達は駅をまた出た。
タツミくんが私の手を引いて、どんどん歩いていく。
もう遅い時間なのに、花金で浮かれている人達と何人もすれ違う。
やがて…周りの景色がいかがわしくなって、私はやっと、タツミくんの言葉を理解した。
タツミくんの歩く速度が、少しずつ遅くなる。ずっと後ろをついて歩いていたので、ようやくタツミくんの横に並べた。
タツミくんはチラッと私を見て、またすぐに向こうへ目を泳がせた。
「ゴメン、俺、暴走してるね。
ねぇ、止めて?
まだ早いよね、イサミ、また思い出しちゃうかもしれない」
タツミくんが手を握る力を強くする。
思い出す。アレだよね。サナダにされた事。
タツミくんに見られてるんだよね、あの時の私の…
こんな関係になる前に。
タツミくんはきっとそんな風には考えてなくて、私だけ、こう、ふしだらな事をモヤモヤ考えて…
サナダとの事はもちろん、ハジメちゃんとの秘め事も…思い出されて…
あんな感じのを、タツミくんも? …とか思ったら…
…ちょっとコーフンしたりなんかして…わー、やだもう。
「イサミ? ねぇ、止めて…?
じゃないと…
…連れ込んでしまう…」
私がそんな事を考えている間、タツミくんが必死に理性と戦ってる。私が傷つかないように、考えてくれていた。
…