traverse
141/168ページ
私が乗る路線の終電にはまだ少しあったので、改札付近でボンヤリ壁に寄り掛かった。
この路線は、他に比べると少しローカル。乗降客も少な目で、改札には私達の他に誰もいなかった。
「あと…もう少し?」
「ん…もう少し」
お互い言葉少なで、電光掲示板をチラチラと見る。
デッキからずっと、手を繋いだままだった。
ひんやりと冷たい、タツミくんの手。
離さないと、私達は夢へと向かう道を歩けない。
【まもなく○番ホームに電車がまいります】
電光掲示板のお知らせ。
私達はゆっくりと、手を握る力を弱める。
「手紙書いてね」
「分かってる」
「電話もたまにしてね、声聞かせて」
「分かってる」
「風邪ひかないでね」
「分かってる」
「それから…それから…」
「イッサ、電車行っちゃう」
まだ、指先で繋いでいた。なかなか離せない。私も。タツミくんも。
「~~~っ」
タツミくんの唇に一瞬でキスをした。
タツミくんが固まったのが分かった。
張り裂けるような思いで、指を離した。
と同時に
タツミくんが
私が今離した手を掴んで
強く引き寄せた
もう片手で
私の肩を抱く
タタン…タタン…
タツミくんの腕の中で、終電が行ってしまった音を聞いた。
「ばかイッサ。
…帰したくなくなったじゃん…」
タツミくんの掠れ声が、私のすぐ耳元で響いた。
…