traverse
139/168ページ
キスの途中で、おなかがぐぅーっと鳴った…ふたりして(笑)
「…ばかっ(笑)」
「なんでよ(笑)」
ムードもへったくれもないけれど、もう夕飯時を軽く過ぎていたから、それは当たり前だった。
「えーと、俺とごはん、食べに行きませんか」
妙にかしこまった言い方をして、タツミくんが手を差し出す。
「うん、行こう行こう。あー、おなかすいた」
おどけてタツミくんの手を取った。
あんな事をした後なのに、いや、した後だからかな、すごくドキドキしている事、隠したかった。
私達は商店街を抜けて、地下鉄に乗った。
その間、タツミくんが留学するに至る経緯を聞いた。
オダギリさんの紹介で交換留学をする事になって、ホームステイ先ももう決まっている。
オダギリさんのレコード会社で、大きなプロジェクトがもうすぐ始動するそうで、その企画の一環でタツミくんが向こうへ渡るらしい。
詳しくは秘密だそうなので、それ以上は聞けなかった。
私がタツミくんを避けていた間に、タツミくんの周りが大きく動いていたんだなぁ。
出発は、明日午前の便。
「あれ、じゃあタツミくん、今日ホテルとかとってあるんじゃないの?」
「うん? あー、ほら、俺もう荷物とか向こうに送ってて、持ち物ってこのバッグとギターだけなの。
だから、カラオケかネットカフェで、夜を明かそうかと思ってる(笑)」
「え、そうなの? ちゃんと寝ないと、体疲れちゃうよ?」
「へーきへーき。路上の前に寝てきたし、どうせ飛行機乗ったらたっぷり寝れるもん」
そんな事を話している内に、地下鉄は目的の駅に着いた。
私達は、港の駅のもう少し先の、同じように大きい繁華駅で降りた。
…