traverse
135/168ページ
私は手の甲で少し乱暴に涙を拭って、ベンチから勢いよく立ち上がった。
「タツミくん? なんで? ナニよ、留学って? 全然聞いてないよ」
「ごめん。
言おうと思ってたんだけど…イッサになかなか逢えないし」
「電話でもメールでも、すりゃいいじゃん。
なんで、そんな大事な事、私に黙ってるの?」
自分の事は棚に上げるズルい私、タツミくんを責め立てる。
「…イッサだって。
何にも話さなかったじゃん。
もうこの町に住んでない事、俺知らなかったよ?
なんで言わないの?
そりゃ、忙しかったんだろうけどさ…
電話でもメールでも、すりゃいいじゃん」
珍しく、タツミくんも語気が強い。こんな風に言い合いをしたの、初めてかもしれない。
「…ごめんなさい…」
私が悪いのは明らか、俯きながら謝った。
私のそんな様子にハッとなったタツミくん、また、手が伸びかけたけれど、ギリギリの所で触れず、そのまま降ろされた。
「…ごめん…俺も同じって話だよね。
でも、イッサとは、不思議とさ、またいつでも逢えるって、約束なんかなくても逢えるんだって…
変な安心感があったんだよね…
だから、逢った時でいーやって…高括ってた」
同じだ。私と、同じ。
「でも…違うんだな…
ハジメさんが言ってくれなかったら…
俺達は…
……」
タツミくんが遠くへ目を泳がせた。
沈黙の間、タツミくんの口から白い息が、上へ舞い上がる。
ドクドク…
変に苦しくない。タツミくんの心の内が少し見えている今は、全然平気。
いっぱい話したい事があったはずなのに、なんだったっけ? ちっとも言葉が出てこない。
掛ける言葉を決めあぐねていると…タツミくんが口を開いた。
「イッサ」
「ん…?」
「言ってもいい?」
「ナニを…?」
という私の言葉に、タツミくんが被せた。
「俺
イッサが好き」
…