traverse

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「え…え? ハジメちゃん?」

 私は素っ頓狂な声をあげた。

 ???

 ハジメちゃんの言ってる事がよく分からない。

 ハジメちゃんは少々大げさな溜め息をついて、続けた。

「はあー…オマエらさぁ…
 俺がナンにも言わなかったら、どうするツモリだったワケ?
 どーせあれだろ? またばったり逢うから、その時にって思ったんだろ?
 そんな都合のいい…ずっと続くわけないじゃん」

 ハジメちゃんの言葉が図星過ぎて、返す言葉もない。

「先延ばしにすんなよ。後悔するぞ。

 タツミくん、

 今日が最後の路上ライブって言ってたぞ」

 私は息を飲んだ。

 え。

 うそ。

 なんで?

「ったくよー、アイツも俺経由で話通そうとしやがるのな。
 …行けよ。もう上がれ」

 突然突き付けられた現実と、ハジメちゃんの後押し。

「え…まだ全然働いて…開店もしてない…」

 戸惑っていると、ハジメちゃんが奥から私の上着と荷物を持ってきて、カウンターに乱暴に置いた。

「最後に味噌作ってやれなくて、ゴメンな」

 じわっと…目頭が熱くなった。

 目を伏せて、少し呼吸を整えた後、エプロンと三角巾を取っ払って、上着を着た。

「ハジメちゃんっ…ありがと…!
 今までも…ありがとう!」

 言い終わらない内に、私は駆け出した。

「あれっ? イサミちゃーん? どうしたの? 仕事は? たしか今日最後じゃなかったっけ?」

 入口の所で常連のオジサマ達とすれ違う、軽く会釈をして、私はメイン通りに向かって走っていった。

 ハジメちゃんが外に出てきて、オジサマ達に言ってくれるのを、背中で聞いた。



「ハイハイ、オジサマ方。勇実ちゃんは急用でーす。ジャマしないでやって(笑)」





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