顔が、カーッと熱くなった。

　私は、タツミくんの手を振り払ってしまった。

　うわ。うわ。うわ。どーしよう。

　赤い顔を見られたくなくて、俯いた。

「イッサ？
　なんか…ごめん。
　強く、引っ張り過ぎちゃった…？」

　タツミくんが申し訳なさそうに言う。

　私は、フルフルと首を横に振った。もう、ムリ。これ以上タツミくんの傍にいるの、ムリ。

「あ、あーっ、私、そろそろ帰らないと…家で、やる事あって」

「え？　あー、うん。そうなんだ。気をつけて帰って。
　俺は…もう少ししたら、路上」

「あ…そうなんだ。だから、暇潰し？　そっか。がんばって。風邪ひかないようにね？　タツミくん、寒がりだからなぁ」

「フフ、平気平気。そんなヤワじゃないって。
　…あー、イッサ？」

「えっ？　ナニ？」

「あのー…
　……
　…いいや。また今度、逢った時に話す」

　タツミくんの手が伸びかけたけど、すぐ引っ込まれた。

「え、えと、あ、そう。じゃ、またね」

　ドクドクとうるさい心臓の辺りを、そっと服の上から掴んで、私は図書館を出た。



　家に着くまでの間、フラフラと歩いて、ぐるぐるぐるぐる、ずっと考えていた。

　私、なんで今まで平気でタツミくんの横にいられたんだろう。

　タツミくんの傍にいると、なんかヘン。いつもみたいに振る舞えない、そんな自分がイヤダ。



　おばあちゃんの遺品整理が済んで、もうすぐ実家に戻る時が、すぐそこまで迫っていた。

　タツミくんに伝えなきゃいけない大事な事なのに、言えなかった。電話もメールも出来ないほど、私は動揺していた。



　タツミくんが私に話したかった事、これすらも…気に留められないほど、私はタツミくんの傍にいるのを恐れて…



　タツミくんに逢わないように、タツミくんにばったり逢ったりしないように…



　【きたいわ屋】にも【喫茶KOUJI】にも、例の場所にも…また足が遠退いた。





…