木造建築の平屋。私が学校や仕事を往復する為の拠点。そして、週末おばあちゃんを迎える為の大切な…帰る場所だった。

「どうぞ…入って？　散らかってるけど…」

「うん…おじゃまします」

　ここまで送ってくれたタツミくんを、招き入れた。タツミくんは玄関の脇にギターケースを立て掛けて、ギシッと家に上がった。

　居間に案内する。遺品整理の為の箱が積み重ねられて、少し圧迫感があって、タツミくんに申し訳なかった。

　おばあちゃんに手を合わせたいと言ってくれた。

　壁際に小さなテーブルを出して、そこにおばあちゃんの写真と、供花と、香炉と、リンだけを飾っていた。

　お仏壇や本来の仏具一式は、実家に祀られている。

　マッチでローソクに火を灯し、お線香を捧げるタツミくん。リンを静かに鳴らし、手を合わせた。

　おばあちゃん。この人が、タツミくんだよ。

　第一印象最悪っておばあちゃんに話したけど…

　今はすごく、いい友達なんだよ。

「あ…このコースターは…？」

　タツミくんが、花立の下に敷かれたコースターを見つけて言った。

「おばあちゃんが…誕生日プレゼントで…
　おばあちゃんね…編み物がすごく上手だったの…」

「うん…そっかぁ…
　なんかね、イッサらしいね、このコースター。
　一度、お礼を言いたかったな。
　大根ハチミツ、イッサに教えて貰って助かりましたって」

「ふふふっ…うん…喜ぶよ…」

　おばあちゃんの写真を見つめながら、私達は静かに言葉を交わす。

　悲しみが込み上げるかと思ったけれど…そんな事はなかった。

　むしろ…タツミくんと話していくと、ポカポカと心が温まるのを感じる。

「イッサは…今は、どこで寝てる？
　きっと…あの辺りなんじゃない…？」

　タツミくんが指を指した方向を見る。

　窓の下。

　何で分かるんだろう。

「うん…向こうに寝室あるけど…
　ヒトリで暗い所はイヤで…
　そこなら…月明かりが入ってきてね、おばあちゃんの写真も見えるから…」

　タツミくんが私の手を引いて、そこに座らせた。タツミくんも私のすぐ隣に座る。

　肩を寄せ合って、私の手の甲を、上からタツミくんの手が優しく覆う。

「しばらく…こうしてるよ？」

　私の目を見ずに、タツミくんは言った。

「うん…ありがと…」

　私も目を伏せながら、言った。

　くっついている部分から、タツミくんの熱がじんわりと伝わる。

　それだけで…安心したというか、なんかもう、この時の私にはよかった。

　…手のひらを上に向けて、タツミくんの手を握り返した方がよかったのかな？

　いや

　それは私もタツミくんも

　多分望んでいなかったと思う





…