traverse

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「…もしもし…? ハジメちゃん…?
 おはよう…ごめんね…まだ寝てたよね…
 うん…
 うん…
 うん…亡くなった…
 …ハジメちゃんが送ってくれなかったら…
 …多分…間に合わなかった…
 …ありがとね…
 …ん…っ…
 平気…大丈夫…お父さんもお母さんも…いるし…

 あ…あのね…【きたいわ屋】、しばらく…2週間くらい…お休みもらっていい…?
 葬儀の手配とか…遺品整理とか…色々…
 うん…うん…
 潤子サンと、学校には、自分で連絡するから…大丈夫だよ…

 …え? …タツミくん…?
 …大丈夫、連絡するから…

 …うん…ありがと…また詳しく決まったら連絡するから…
 …じゃあ…」



 おばあちゃんの部屋の前で、スタッフの人達がせわしく動く中、私は必要と思う所へ連絡を入れていた。

 ハジメちゃん、潤子サン、専門学校…

 それから…

 タツミくんに、電話も、メールも、何故か出来なかった。一番の友達と思うのに、出来なかった。

 夢を掴みそうなタツミくんに、話す勇気はなかった。

 でも、何も情報がなかったら、余計な心配をかけさせてしまう。

 私は、【喫茶KOUJI】に電話を掛けた。

 【はい、喫茶KOUJIです】と、マスターのいつもののんびりな声が、耳に響いた。

 私は、つとめて明るく話した。

「…あ、もしもし? マスター? イサミです。おはようございます。
 え? 珍しい? そうだよね。うん。あのね。
 家の用で色々しなきゃいけないことができてね…しばらくそっちに顔出せそうにないんだ。
 うん…多分2週間くらい。だから月曜、私が来なくても気にしないで、タツミくんにモーニング出してあげてね。

 うん? …うん、タツミくんは知らないよ。だから、マスターから言っておいてくれるかなぁ。
 …うん。お手数かけます。あ、私は、元気だから。

 …落ち着いたら、また顔出すから。それじゃあ」



 ふう…と大きく息をついて、私はおばあちゃんの部屋に戻って、皆と一緒に準備を始めた。



 おばあちゃんを送るための…準備を。





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