traverse

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 おばあちゃんが家に帰って来るのはいい気分転換になると、施設の人も賛成だった。

 だけど、この家は今のおばあちゃんが寝泊まり出来るようには出来ていなかった。

 夕方前に来て、一緒に晩ごはんを食べて、それから一緒に施設に帰って、特別に一泊出来るように計らいをして貰う。

 そういうスタイルでここまでやってきた。

「おばあちゃん、見て。潤子サンに貰った。誕生日プレゼントだって」

 オレンジのプリザーブドフラワーを見せると、おばあちゃんがにっこり笑って、私の手を開かせて、何かを乗せた。

「おばあちゃんからも、よかったら使って」

「わあっ」

 丁寧に編み込まれた、花柄のコースター。おばあちゃんは編み物が上手で、小さい頃からマフラーや手袋なんかをくれていた。

「ありがとぉ、おばあちゃん」

「ふふふ、こんなことしかできなくて、ごめんね。
 お誕生日、おめでとう」

「ううん…ありがと…」

 私はまた、おばあちゃんの首に抱きついた。

 おばあちゃんはポンポンと私の頭を優しく撫でる。

 どんなに忙しくても、どんなに疲れても、これだけで私の心は満たされる。

「おばあちゃん、また、マッサージしていい?」

「ああ、もちろん。おばあちゃんには、勇実ちゃんのマッサージが一番だよ」

 私がマッサージ師の資格を取ろうと決めたのは、おばあちゃんが上手だねって褒めてくれたから。

 いっぱい勉強して、もっと上手になるんだ。



 施設に戻ってからも、眠るまでおばあちゃんとずっとおしゃべりをしてた。

 次の日の朝、朝食を頂いて、家に帰る。

 おばあちゃんは寂しそうに、私を見送った。

 私も、家に着いて、おばあちゃんがいない空間に言い知れない不安が襲って、はあ、と溜め息をついた。

 おばあちゃんと過ごした後はいつも、そうだ。





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