雑踏の中のふたり
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ひと月経って、一層寒さがこたえるようになった。
高志は、学校に通っていた頃の制服の上着を肩に掛けて、腰が抜けているといっても全く立てないわけではない、ウロウロと、自分が疲れない程度に歩き回った。
少女は、持ってきたものがほとんど売れて、革靴だけが残っていた。
あれは、売れない。
高志は思っていた。
悟の伯母さんが持ってきた時の物とは、比べ物にならないほど破損が酷かった。
毎日、売れ残る革靴を見て、少女は深い溜め息をついた。
とうとう我慢ならず、高志は少女のそばに行き、
「んっ」
と片手を少女の前に突き出した。
訳が分からないと、少女が目を丸くして高志を見つめると、高志は無言で革靴を茣蓙から取り上げた。
「あっ」
少女が短く叫ぶのを無視して、高志は自分の持ち場へ戻り、その革靴を修理しだした。
磨くだけじゃない、綻びだって多少は直せる腕を持っていた。
「あんなんで晒してたら、靴が可哀想だ」
見違えるほどきれいになった革靴を、また少女の茣蓙に並べて、少女の顔を見ないで言った。
持ち場に戻る時にちらっと見たら、少女は直された革靴に視線を落としたまま、動かなかった。
余計な事をした。
いつもなら、知らんふりなのに。
持ち場に腰を下ろした時、
「…ありがとう」
小さな声だったけれど、少女の凛とした声が後ろから飛んできた。
高志は、それに返事をしなかった。
…