雑踏の中のふたり
7/43ページ
そうして幾ヶ月経ってもまだ、蹴られる事が大半だった、ある日。
「これ、お願いしてもいいかしら?」
優しそうな初老の婦人が、持ち場に座ってうなだれていた高志に、少しキズの付いている紳士用の革靴を差し出した。
目にチクチクかかる前髪を掻き上げて、
「はい! おまかせください」
高志はぎこちない笑顔で、その革靴を受け取った。
婦人は、ひとり少年を連れ立っていた。
高志と同じ歳ぐらいの…あっ! と心の中で声を上げた。
同じ学校だった、
同じクラスになった事はなかったけれど、リーダー的な存在で、高志もそんなような存在だったから、喋った事はなくとも、お互いになんとなく意識し合っていたようだった。
確か、悟は小さい頃に両親を亡くして、親戚の間をたらい回しにされていたと聞いていた。
悟が高志の学校に入ってきた時は、それはもう落ち着いていたようだった。
「伯母さん、ほんまに頼むの?」
あ、やっぱり、あの悟だ。
独特の言葉、来たばかりの頃は皆にからかわれていたが、悟は気にせず、そのままの言葉を貫き通していた。
悟は高志には気付いていないようだった。
学校を卒業してから一度も逢っていない、ずっと昔の事で、高志もあの頃の面影はないから。
…