雑踏の中のふたり

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 高志は

 駅の中を往き来する足たちを

 ぼんやり見つめていた

 千晴が死んで

 高志は稼ぐのをやめた

 食べるのもやめた

 動くのもやめた

 座りっぱなしで

 千晴の亡骸を抱いて

 千晴が

 死が

 迎えに来るのをじっと待っているようだった

 千晴は

 こうしているのを怒るかもしれないけれど

 何かをすることもせずに

 高志は

 ただ呼吸をしていた

 その内

 目を開けても

 駅の薄暗ささえも分からず

 真っ暗闇だったなら

 それが死だと

 それが来るのを

 ただ待つだけ



 誰も見向きもしない

 ザッザッザッ

 足早な雑踏の中で



 高志は



 ただ



 呼吸をしていた










雑踏の中のふたり〈完〉





[リアルタイム執筆期間]
2015年1月11日~1月20日

[改稿終了日]
2021年6月26日






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【雑踏の中のふたり】あとがき





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