雑踏の中のふたり

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 そして

 年が明けた



 駅の中をせわしなく往き来する雑踏の中で

 高志は

 麦藁帽子を目深に被り

 千晴の肩を抱いていた

 もう動かない

 いとおしい千晴



 年が明ける前日

 約束した通り

 千晴と食べようとして

 もくもくと煙る蕎麦のお椀をふたつ持って

 千晴の元へ戻った高志

 千晴が高志の袖を引っ張るので

 一度お椀を下に置いて

 千晴の導かれるままに

 手を千晴の胸に置いた

 冷えた手を温めてくれるのかな

 千晴の仕草に笑みがこぼれる

 でも

 一向に手が温まらない

 それどころか

 千晴の鼓動

 どうしてこんなに弱々しいの?



「千晴…っ?」



 高志が千晴の両肩を掴む

 千晴は静かに微笑んで

 言った



「…ごめ…んね…た…かし…

 …ご…めん…ねぇ…」





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