雑踏の中のふたり
5/43ページ
そういう世の中の縮図が、駅だった。
駅の構内は、浮浪者達が稼ぐにあたって、格好の場所だった。
駅には、生き延びようとする孤児達が沢山いた。
その中に、
戦後、孤児となり、坊主頭だったのが伸びに伸びて、目も耳もすっかり隠れた。
駅内の太い柱を頼りにもたれかかり、床に尻をついて、靴磨きで少しばかりの金を稼いで、命を繋ぎ止めていた。
親を戦火で失い、ひとりで生きてきた。
稼ぎは、高志を健康な体に戻してはくれなかった。
栄養失調の、一歩手前。
水は沢山あったし、食べ物も少ないながら駅の露店で買える。
高志の徒歩範囲は、この狭い駅の中のみだった。
客がいつ来るか分からないから、ずっと座りっぱなし。
いつしか、腰が抜けたようにすぐに立てなくなった。
「いらっしゃい」
客が来ると、さっきまでの虚ろな瞳がどこかへ飛んで、高志の顔が驚くほど笑みで満ちて明るくなる。
催眠術みたいに、高志はそれを繰り返すだけだった。
…