雑踏の中のふたり

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 千晴は泣きながら、話した。



 千晴には、幼馴染みの、好き合っていた男がいた事。

 戦争が終わったら必ず結婚しようと言っていた事。

 その約束の証しに、彼がこの手編みの麦藁帽子をくれた事。

 そのすぐ後、住んでいた町が戦火に焼かれた事。

 自分はたまたま、学校の課外勤労でよその町に出ていたから、助かった事。

 父も、母も、彼も、瓦礫に埋もれて亡くなった事。

 親戚を頼って移り住んだけれど、親戚の家も自分達の事で手一杯で、千晴に優しくなんかしなかった事。

 それどころか、千晴が持ってきた父と母の形見を全部我が物にしようとしていたので、慌てて出てきた事。

 流れに流れて…この駅に辿り着いた事。

「…わかった…わかったから…もう、言うな…もう、泣くな…」

「…だっ…て…」

「…悪かった…帰れなんて…言って悪かった…」

 千晴の腕の中でくるりと体を回転させて、高志は千晴と向き合った。

 そして、指で千晴の涙を拭いながら、言った。

「…千晴がいいなら…ここにいて」

 高志の言葉を聞いて、千晴の涙が次々と零れた。

 拭う指が、追いつかない。

 高志は無意識に、本当に無意識に、唇でその涙を吸った。

「…っ…」

 千晴が身を強張らせて、高志の目を見つめた。



 千晴を、守りたい



 両手で千晴の頬を優しく包んで



 ゆっくり



 自分の唇を千晴の唇に



 押し当てた





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