雑踏の中のふたり
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その日の夜、めっきり冷え込んだ。
この冬一番の寒さ、体がブルブル震えて、眠る事が出来ない。
…このまま…死ぬかな…
思わず死をかすめてしまった、その時。
高志の毛布の中に、何かがスルスルと入り込んだ。
それは、高志の背後から伸びて、腰まわりを取り巻いて、ギュッと締めた。
高志の背中に、温かい、柔らかな感触。
それが何か分かった時、高志の体温が急上昇した。
「…なに…やってるんだよ…」
「…だって…寒そう…だったから…」
「…上着は…?」
「…着てるよ…肩に…掛けてるだけだけど…」
胸の膨らみを押し付けて、千晴は高志の質問に答えた。
「…あったかい…?」
千晴の掠れ声に、高志は思わず生唾を飲んだ。
千晴は、分からない?
今、俺の心臓が暴れてやばい事。
俺とあの時のおっさんが、全く違うって保証がない事。
千晴が、とても魅力的だという事。
「…ずっと…そうしてるつもり…?」
「…私も…この方があったかい…から…高志…が、いいなら…」
心臓がバクンと飛び跳ねた。
千晴の声で初めて呼ばれた、俺の名前。
今すぐに、正面から抱きしめたい衝動に駆られた。
けれど、それはダメだと理性がブレーキをかけた。
千晴には帰る場所があるはず。
今、高志が本能のままに動いてしまったら、千晴は本当に帰れなくなってしまう。
「千晴」
「…うん…?」
背を向けたままの高志に両手を包まれて、また千晴も初めて名前を呼ばれた、その嬉しさからか、千晴の声が弾んで聞こえた。
それを感じ取らないフリをしながら…高志は言った。
「帰れ。
コータ…とかいうヤツのところへ…帰れ」
…