雑踏の中のふたり

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 それから…



 何日経っても、千晴は駅から出ていかなかった。

 ずっと、高志の横に座っていた。

 高志が靴磨きをしている時も、高志が何か道具を必要として手探りをしていたら、察してすぐに手渡ししたりした。

 千晴がいるおかげなのかどうなのか、客が少しずつ増えて、稼ぎもちょっとよくなってきた。

 その日稼ぎの金で、高志と千晴の晩ごはんを買うのが日課になった。

 千晴が今まで稼いだ金はどうしたかというと、高志と千晴それぞれに、薄っぺらい毛布を闇市から買って、それで全て無くなった。

 戦争前の暮らしとは程遠いけれど、少しの食べ物と、ちょっとは寒さをしのげる寝床、そして隣にいてくれる人、十分過ぎる気がした。

 高志の腰も、いつの間にか、すぐに立ち上がれる程までに回復していた。



 秋が過ぎていって、雪のちらつく季節になっていた。

 晩ごはんの屋台の豚汁を、ふたりで白い湯気をふぅふぅと飛ばしながら食べた。

「もうすぐ…年明けだなぁ…」

 お椀を両手で持ちながら、遠くをぼんやり見つめて高志は呟いた。

 この沢山の雑踏の中で、千晴と年を越す事になるんだろうか。

 その時は、俺の稼ぎで蕎麦を食べよう。

 今みたいに、ふたりでふぅふぅしながら…

 ちらっと千晴を見ると、同時に千晴も高志に目を向けて、視線が絡んだ。

「…なんだよ」

 恥ずかしくなって、わざとぶっきらぼうに言うと、

「…なんだよ~、ふふっ」

 笑いながら、千晴は高志の口真似をした。

 いつの間にか、高志の中で千晴の存在が大きくなっていた。

 千晴がいれば、俺は生きていけるのかな。

 でも。千晴には多分、帰る場所がある。

 行くな。帰れ。俺の横にいて。こないだ呼んだソイツの所へ帰れ。



 高志は…どうしたいのか、自分で分からなかった。





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