雑踏の中のふたり
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結局、高志はおっさんに勝利する事が出来なかった。
おっさんは高志の手首を掴んで振り払って、その拍子に高志の体が吹っ飛んだ。
倒れ込む高志の腹に、蹴りを一発入れた。
首の絞め痕を撫でて、ゲホゲホと咳き込む高志を苦々しく一瞥してから、おっさんは去っていった。
ちゃっかり、茣蓙に置いていたシャツと、スカートと、札束を拾い上げて。
地べたに頬を着けながら、高志は遠ざかっていくおっさんの足を見ていた。
もう、来んなよ。
まあ、あの子が出ていったから、来る理由がないか。
あの子は、無事に遠くへ行けたかな。
もう、会えないんだな。
そう、ぼんやり考えていたら、高志の頭上がふっと陰った。
そして、高志の視線の先に、色白の細い脚。
「ば…っか、なん…で…いるんだよ…」
目だけで見上げて、高志はその脚の主に呻いた。
「ごめ…っなさ…い…ごめ…」
高志の上着を着て、胸の前で麦藁帽子を抱き締めている少女が、ポロポロと涙を零していた。
…