雑踏の中のふたり
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「なんだぁ? お前は」
おっさんがギロリと高志を見下ろした。
もっと襟を突き上げたいのに、おっさんは高志より背丈があるし、高志はやっぱり足腰に力を込められない。
おっさんが少し振り払っただけで、高志の体は簡単に揺らいだ。
でも、高志は襟を掴んで離さなかった。
「触る、だけしかしてない。お前だって、見てたろう?」
嘲笑するおっさんに、高志は食って掛かる。
「あんたのは、その、違うだろ。なんていうか、アイツを傷つけるな」
高志の言葉を聞いて、おっさんは、はあっ? って顔をして、くっくっくっと肩を震わせた。
「触っているだけ、殴ったりしてない。見てたろう?
この子も内心、悦んでいるんだ。聞いただろう? あの濡れたような声を。
お前はまだ、何も知らないか?
でも、興奮はしたな? 同じ、男だもんな?
あの子が喘ぐのを、もっと見たいと思わないか? え? …うぐっ」
おっさんが言い終わらない内に、高志はおっさんの太くて短い首を絞めた。
少女が胸を両腕で隠してガタガタと震えながら、それを見ていた。
「早く…上着と…帽子持って…逃げろ…!!」
高志は少女を見ずに、喉奥をキュッと絞りながら言った。
少女が上着と帽子を拾い上げてこの場から去るのを、気配で感じた。
おっさんが少女を追おうとしたので、高志はおっさんの首に抱きついて、全体重を乗っけた。
おっさんがよろめいて尻もちをついたのをきっかけに、高志はおっさんに馬乗りして、首を絞め続けた。
おっさんの言った事が図星過ぎて、頭の中が沸騰して、ますますワケが分からなくなっていた。
──あの子を見てない。見てた。見てない。見てない…フリを、してた。
…