雑踏の中のふたり

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 (★)

「なんだぁ? お前は」

 おっさんがギロリと高志を見下ろした。

 もっと襟を突き上げたいのに、おっさんは高志より背丈があるし、高志はやっぱり足腰に力を込められない。

 おっさんが少し振り払っただけで、高志の体は簡単に揺らいだ。

 でも、高志は襟を掴んで離さなかった。

「触る、だけしかしてない。お前だって、見てたろう?」

 嘲笑するおっさんに、高志は食って掛かる。

「あんたのは、その、違うだろ。なんていうか、アイツを傷つけるな」

 高志の言葉を聞いて、おっさんは、はあっ? って顔をして、くっくっくっと肩を震わせた。

「触っているだけ、殴ったりしてない。見てたろう?
 この子も内心、悦んでいるんだ。聞いただろう? あの濡れたような声を。
 お前はまだ、何も知らないか?
 でも、興奮はしたな? 同じ、男だもんな?
 あの子が喘ぐのを、もっと見たいと思わないか? え? …うぐっ」

 おっさんが言い終わらない内に、高志はおっさんの太くて短い首を絞めた。

 少女が胸を両腕で隠してガタガタと震えながら、それを見ていた。

「早く…上着と…帽子持って…逃げろ…!!」

 高志は少女を見ずに、喉奥をキュッと絞りながら言った。

 少女が上着と帽子を拾い上げてこの場から去るのを、気配で感じた。

 おっさんが少女を追おうとしたので、高志はおっさんの首に抱きついて、全体重を乗っけた。

 おっさんがよろめいて尻もちをついたのをきっかけに、高志はおっさんに馬乗りして、首を絞め続けた。

 おっさんの言った事が図星過ぎて、頭の中が沸騰して、ますますワケが分からなくなっていた。



 ──あの子を見てない。見てた。見てない。見てない…フリを、してた。





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