雑踏の中のふたり
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翌日、少女の茣蓙には新しく物が並べられていた。
てっきり、持ち物が全部売れて、ここを出ていくのかと思ったら。
今度は少女の私物らしく、革製の学生カバン、冬の制服一式、浴衣、今身に付けていた夏服のスカーフをシュルッと抜いて、きれいに畳んで置いた。
最後に、ポニーテールの結び目に挿していた、緋色の石がついた小さなかんざしを抜いて、それも置いた。
「それは、売らないの」
高志は、ずっと肌身離さないつば広の麦藁帽子を指差して、言った。
高志の言葉を聞いて、少女は固まった。
また、余計な事を言った。ほっとけばいいのに。
少女はしばらく考え込んで、首に掛けていたその麦藁帽子を茣蓙に置こうとした。
「ちょっと! いいんだよ、俺の言葉なんて。
それ、大事なんだろう。
持っておけばいいじゃないか」
自分でもビックリするぐらいの、大きい声が出た。
少女もビックリしていた。でも、すぐに笑顔になって、
「…ありがとう」
再び麦藁帽子を首に掛けた。
これにも、高志は返事をしなかった。
数日かけて、少女の物は売れていった。
きれいに茣蓙だけになった時、もう売る物ないだろ、ここ出ていくだろ、高志はそう思った。
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→【雑踏の中のふたり】中間雑談・1
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