雑踏の中のふたり
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数日後、その革靴がようやく売れた。
嬉しさのあまりか、客に渡す時の少女の頬にうっすらと赤みが差した。
客が帰ると、少女はどこかへ消えた。
どうしたんだろうと考える間もなく、高志にも客が来たので、そちらに集中せざるを得なかった。
高志の仕事がちょうど済んだ頃、少女が戻ってきた。
手に、もくもくと湯気のたつ大きいお椀。
それを、高志の前に差し出した。
「…お礼」
そう言って、無理矢理高志にお椀を持たせて、自分の持ち場へ戻っていった。
お椀の中身は、うどんだった。
呆然と少女を見つめると、少女はその視線に気付いて、にこっと笑った。
茣蓙の物が全部売れて、この後あの子はどうするんだろう。
そんなことを考えながら、高志はありがたく、うどんをすすった。
この時も、少女に返事をしなかった。
…