悠の詩〈第2章〉
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「おー、柳内ぃ」
病院の帰り、電車を降りて改札を抜けた所で、両手にレジ袋をぶら下げたコタ先生がそう声を掛けた。
「コタ先生? なんで、こんなとこ歩いてるの」
「何でって、普通に通勤ルートなんだが?」
先生の答えに腑が落ちなかった。今夏休みだし、部活でって思ったけど、コタ先生は顧問を受け持ってない。
「はっは。今日は当直の遅番なんだ。まだ少し早いけどな…
柳内は? あ、病院行ってたのか」
「…ん」
無意識に右の二の腕をさすった。
リハビリをしては痛め、安静にして、リハビリを再開して、また痛め…その繰り返しで回復の兆しが見えなかった。
担当医師には「焦らず続けていくしかない」とたしなめられたけど…
一体いつまで続くんだろう、また無意識に、視線を落とした。
夕方ラッシュの人波が、ザッザッザッと俺の左右を通り過ぎていく。
「あー、柳内?」
「…ナニ? 先生」
お互いしばらくの沈黙の後、コタ先生が俺に問いかけた。
「まだ、時間あるか? お母さんに真っ直ぐ帰ってこいって言われてるか?」
…何でそんな事を聞くんだろう。
「いや特には…別に大丈夫だけど」
「そうか。
じゃあ、今から俺と一緒に学校に行こうか」
「へ? な、なんで?」
「今日さぁ、天文部が天体観測をするんだよ。
ちは…赤木先生だけじゃ心許ないから、俺も少し補佐に入るんだよ。
後藤とか由野とか…オマエの顔見れたら安心するんじゃないかな」
天文部。そういや樹深が夏休みにそんな事をやるって言ってたなぁ、ずいぶん前に。
皆とは終業式の日にろくに話をしなかった。俺さっさと帰っちゃったし。
俺の返事を聞く前に「さぁ行くかぁ」ってコタ先生は駅ビルの出口へさっさと歩き出してしまったので、俺は慌てて後を追いかけた。
樹深、由野、柏木もいるんだろうか、アイツらと顔を合わせるのが少し…怖かった。
…