悠の詩〈第2章〉

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 と、そこで天井から、ぐわりとスタンドの歓声がうねって降ってきた。

 試合はまだ続いている。

 俺、戻ったらダメかな。

 最後まで皆と…

「春海、タクシー来た、行こう」

 ああダメなんだと、見届ける事も叶わないんだと知ったら、目頭がつんとなった。





 医務室の裏口がすぐタクシー乗り場になっていて、かあちゃんが呼んだタクシーが停まっていた。

 ありがたい、歩く度痛みに響いて辛いから助かる。

 かあちゃんと先生の手を借りながら後部席に乗り込む。

「△△総合病院まで」

 かあちゃんが行き先を伝えると、タクシーはゆっくりと走り出した。

 敷地を出るには球場を半周する、その時に、スタンドの出入口から樹深と丸山と由野と柏木が階段を降りてきた。

 キョロキョロと見回していて、多分俺の事を探してる。

 振り返りで体を動かすのもきつかったから、進行方向を向いたまま、アイツらとすれ違った。



 柏木と、目が合う。



 まさか、と思ったが、サイドミラーにこのタクシーを見つめる柏木が映っていて、それはどんどん小さくなってミラーの端に消えた。



 アイツの眼差しが妙に印象的で、それを俺は何故だかこの先ずっと忘れられない。





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