悠の詩〈第2章〉
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いつまでもこうしてる場合じゃなかった、皆の方へ足を向けた時、「あの、これだけ」彼はまた俺の意識を引っ張った。
「多分キミの事だと思うけど…球場で逢うのが楽しみだって、清水が言ってた。
今、成績を上げるのに必死で…また入部申請出来る程の力をつける為に…
清水、頑張ってるから。
それだけ…伝えたかったので」
呼び止めてごめんなさい、と最後に付け加えて、彼は球場の方へ走っていった。
そのすぐ後で俺は皆の所へ走っていって、「すんません、ちょっと知り合いがいたから」と半分嘘を言ってそれ以上は喋らなかった。
ふーん、と皆もそれで納得して、すぐに練習に取り掛かったから助かった。
誰も俺の様子には気付かない。
頑張ってるから。
この言葉だけで目頭が異様に熱くなる俺の事なんて、誰も気に留めやしない。
頑張っているっていう彼の言葉を鵜呑みにした俺は、この先もユキに連絡を取る事はなく、ユキからも連絡はなかった。
野球を続けてさえいればいつか逢える、ユキが自分の力で野球に戻ってくる、って信じていた。
──結局、中高時代に逢う事は無く、成人するちょっと前にやっと再会できて、
「ハル、まだ野球やってる?
俺はもう、少年野球で終わっちゃったよ…勉強ばっかりになっちゃってさ、暇がなかった。
でも、時々無性に懐かしくなるよ。
あー、どこか草野球チームにでも入ろうかな(笑)」
こんな会話をする事なんて…
この時の幼い俺は、知る由もない。
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