悠の詩〈第1章〉

9/83ページ

前へ 次へ


「そうだけど…え、と?」

「あっごめんね!? 私ったら急に」

 俺が戸惑いの顔を見せると、その子はぱっと俯いてほっぺたを赤くした。

 知らない子、だけど、樹深の名前が出たって事は。

「えーと、もしかして、樹深と同じ□□小だった?」

 俺の言葉に彼女は勢いよく顔を上げて、こくこくと頷いた。わは、なんだか色々忙しいやつだな。

「俺と樹深、幼稚園からの友達なんだよ。
 なにげに一緒のクラスになるの初めてなんだよな。小学校は違ったし、幼稚園でも別のクラスだったんだ」

 言いながら樹深の方へ視線をやると、前の席のやつと喋っていた樹深もちょうどこっちを向いて、【がんばって】と口パクをした。

 何でそれ? と思ったら、俺にじゃなく彼女にだった。彼女が嬉しそうな顔をしたから。

「よかった…柳内くんが話しやすそうな人で。
 あ、私、由野琴葉です。後藤くんとは5、6年で同じクラスだったの。
 うちの小学校から私達を入れてもたった4人しか来てなくて…あとの二人は2階の教室だし…
 心細くてしょうがなくって、そしたらね、後藤くんが【柳内くんってのが頼りになるから、困った時は話しかけてみな】って」

 そーいうことか。樹深のやつめ、さりげなく優しいじゃないか。

「まあまあ。そんな他人行儀にすんなって。じゃんじゃん絡んでくれよな。
 ほら丸山も。俺達全部学校違うけどさ、仲良くやってこうぜ。
 つーかさ、教科書忘れた時とか、俺隣いねーから、困っちゃうんだけど(笑)」

 丸山と由野が大爆笑。とりあえず、掴みはオッケーって事で。

 少なくとも次の席替えまでは、居心地のいい場所になりそうだ。

 また、廊下際の樹深と目が合って、今度は【宜しくお願いします】とジェスチャーしてきた。

 多分由野の事を言ってるんだろう。オマエは保護者かっつーの(笑)





9/83ページ
スキ