悠の詩〈第1章〉
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「そうだけど…え、と?」
「あっごめんね!? 私ったら急に」
俺が戸惑いの顔を見せると、その子はぱっと俯いてほっぺたを赤くした。
知らない子、だけど、樹深の名前が出たって事は。
「えーと、もしかして、樹深と同じ□□小だった?」
俺の言葉に彼女は勢いよく顔を上げて、こくこくと頷いた。わは、なんだか色々忙しいやつだな。
「俺と樹深、幼稚園からの友達なんだよ。
なにげに一緒のクラスになるの初めてなんだよな。小学校は違ったし、幼稚園でも別のクラスだったんだ」
言いながら樹深の方へ視線をやると、前の席のやつと喋っていた樹深もちょうどこっちを向いて、【がんばって】と口パクをした。
何でそれ? と思ったら、俺にじゃなく彼女にだった。彼女が嬉しそうな顔をしたから。
「よかった…柳内くんが話しやすそうな人で。
あ、私、由野琴葉です。後藤くんとは5、6年で同じクラスだったの。
うちの小学校から私達を入れてもたった4人しか来てなくて…あとの二人は2階の教室だし…
心細くてしょうがなくって、そしたらね、後藤くんが【柳内くんってのが頼りになるから、困った時は話しかけてみな】って」
そーいうことか。樹深のやつめ、さりげなく優しいじゃないか。
「まあまあ。そんな他人行儀にすんなって。じゃんじゃん絡んでくれよな。
ほら丸山も。俺達全部学校違うけどさ、仲良くやってこうぜ。
つーかさ、教科書忘れた時とか、俺隣いねーから、困っちゃうんだけど(笑)」
丸山と由野が大爆笑。とりあえず、掴みはオッケーって事で。
少なくとも次の席替えまでは、居心地のいい場所になりそうだ。
また、廊下際の樹深と目が合って、今度は【宜しくお願いします】とジェスチャーしてきた。
多分由野の事を言ってるんだろう。オマエは保護者かっつーの(笑)
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