悠の詩〈第1章〉

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 やっとの事で煎餅屋に戻れる…と思ったら。

「げっ」

「あらら。土浦先生の予想が当たったか」

 結構な勢いで雨が降っていた。入口で呆然と立ち竦む、のは俺だけで、柏木は用意してたようで、リュックの中から折り畳み傘を取り出した。

「持ってこなかったんだ? 先生言ってたのに」

「そりゃそうだろ、降水確率低かったんだから雨降るなんて思わねぇよ。
 さすが、副班長様は抜かりがないですなあ」

「(笑) しらじらしい。
 ……
 ……」

「は、な、なんだよ」

 柏木が急に無言になって、俺の胸を押して店内にまた入った。

「しいっ。土浦先生が来る」

 柏木が短く答えるのを聞きながら、また押されて入口の死角になる所へ後ずさられた。

 同時にコタ先生が入口に辿り着く。

「はあっ、降るなんて聞いてねぇよ~」

 ハンカチで拭きながらそんな事を言うコタ先生に、傘云々は先生が言ったんじゃんって、俺と柏木は無音で吹き出した。

 そこへ千晴先生も来て、

「土浦先生、生徒誰かいた? っていうか、傘持ってこなかったの?」

 クスクス笑いながら、自分の傘を畳んでお店の軒先に入った。





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