悠の詩〈第1章〉
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「おー。うちの班、今自由行動でさ。つっても、10分かそこらしかだけど。
…何でそんな小声?」
「ほら、もうすぐゴールの集合時間でしょ。
他の先生達は知らないけど、土浦先生と千晴先生がK町通りの見回りしてて、まだゴールに向かってない生徒達を促してる。
うちの班も柳内くん達と同じでそれぞれお土産見ててね…」
由野がそこまで言うと店頭から、
「あっいた琴葉ちゃん! お土産買い終えた?
今土浦先生がこっちの方に来てる、まだ少し距離あるけど…今の内に班で固まってないと」
由野と同じ班の女子が呼び掛けた。
「うん」と返事をしたものの由野はそこから動かなくて、両手に持っている物にチラチラと視線を移していた。
ふたつの髪飾り。ビーズで赤い木の実や葉をあしらったヘアクリップと、桜の花を連ねた和風のバレッタ。
「買う? ソレ」
「え、うん。どっちも素敵で。迷うなぁ 」
「なんで。両方買っちまえば」
「無理…けっこういい値段するんだよ。そんなにお金持ってきてなくて…ギリギリひとつ買えるかなんだ」
「まじかー」
「もう時間もないし…今回は諦めようかな」
溜め息をつきながら由野が両方の品を棚に戻そうとするのを、俺は咄嗟に、片方を止めた。
「え…柳内くん?」
「由野、どっちも買わないのはナシだろ。こっちにしとけ。こっちのがお前らしい気がする」
…