悠の詩〈第1章〉
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焼きたてアツアツの煎餅を食べ終えた頃に柏木が戻ってきて、俺に頼んでおいた煎餅を摘まみ取った時、
「さっきちょっと気になる雑貨屋さんがあってさぁ」
「あそこの豆屋さんでお土産買いたいなぁ」
あれこれと希望が飛ぶ、聞いてるとどれも方向違いで、順番に回っていたら14:30なんかに間に合わないのは目に見えていた。
そこで丸山が班長らしくひとつ提案をした。
「そしたら、班行動としてはルール違反になっちゃうけど、ちょっとの時間だけ自由行動にしよう。
用が済んだらすぐにこのお煎餅屋さんに戻ってくること」
「丸山…いやに気前がいいな?」
「えへへ…実は、あっちの方に気になる電車の模型屋さんが…」
丸山の丸山らしい理由に皆でゲラゲラ笑った後、俺達は散り散りになった。
とは言うものの俺はとくに目的が無くて、とりあえず豆屋に行きたいという樹深についていった。
豆屋には沢山の試食があって、「これうめぇ~、家に買ってこ」「こっちもなかなかイケるよ」全種類制覇しそうなほどボリボリ食った(笑)
俺は会計を済ませて、樹深がまだお土産を決めかねているところで、
「あっ」
少し向こうに、木刀が差して置いてある店を発見。大仏様のお土産屋で諦めた思いが沸々と蘇る。
「俺、あっちも見てくる」
「いいよ。俺はここ済んだらお煎餅屋さんに戻ってるから」
樹深と別れて俺はその店先に到着。
ひゅう~、いいねこの手に馴染む感じ。木刀の柄を握りしめながらニヤニヤが止まらない俺。
柏木は、いないだろうな? くだらない、とまた言われるのを危惧して思わず辺りを見回したけど、アイツはいなかった。
その代わり…店の中に、由野がいた。
「あれっ、柳内くん」
店内に入って俺が声を掛けるより先に由野が気付いて、そして何故か辺りをキョロキョロして声を潜める。
「どうしたの? もしかしてひとり?」
…