悠の詩〈第1章〉

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 ゴールのT岡天満宮へのタイムリミットは14:30。

 H国寺を後にして三再K倉駅に舞い戻る頃、14時をちょうど回った。

「ごめんねみんな…K町通り、あまりゆっくり出来ないかも」

 天満宮へ真っ直ぐ伸びる通りを歩きながら、丸山がシュンとして俺達に言った。

「気にすんな! 俺達みんなで決めた事じゃん。他のやつらよりいーっぱい回ってさ、俺達すげーよな」

 うんうんと他の皆も頷いた。残り30分しかない、とは特に思わなかったけど、

「でもほら…柏木さん、お土産沢山買わなきゃみたいな事言ってたでしょ?」

 まだ暗い顔の丸山がそんな事を言うので、俺達の視線が一斉に柏木に向いた。

「あぁ…大丈夫大丈夫。食べ物系がいっぱい入ったのをひと箱買えばいいだけだから。何がいいかな」

 丸山に気を遣ってなのか俺達の視線が痛かったのか(笑)、柏木がいつになく声を張りながらキョロキョロと辺りを見回す。

 と、突然一点を見つめだしたので、俺達はまた一斉にそちらへ視線を流した。

「わあ、お煎餅の手焼きだ」

 樹深が嬉しそうな声を出す。煎餅に塗る醤油の焦げる香ばしい匂いがたまらん。

 誰も声を掛け合ってないのに、またまた一斉にそこの前に列を成す俺達。

 「買うの? もうおなかいっぱいじゃない?」「別腹別腹」クスクス笑い合いながら煎餅が焼ける工程を見た。

 柏木がスッと列を外れたので、何だ?と振り返る俺に、柏木は握った拳を突き出した。

「なに」

「私の分、一緒に買っといてくれないかな。お会計の場所別みたいだから、先にお土産買ってきちゃう」

 俺の返事を聞く前に、柏木は俺の左手首を下から持ち上げて、開きかけの手のひらに小銭をチャリン。

「それ、銭洗いしたヤツ。お金回り良くしといてよ(笑)」

 それって洗った本人が遣わないとイミ無いんじゃないの? と問う暇もなく、柏木はニヒルな笑いを残してさっさと店内へ入っていってしまった。

 渡された小銭を握りしめながら、アイツ、ちょっとゴーインじゃね? でもそれは何故だか、アイツらしいと思った。

 ていうか、この一日で柏木の被ってた皮が大分めくれたような。転校初日と印象が変わってた。





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