悠の詩〈第1章〉

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 受付を済ませた俺達を待ち受けていたのは、またワープでもしたのかってくらいの異空間。

 空のほんのちょびっとでも晒さないほど、竹が青々と伸びて塞いでいた。

 世界級で絶賛されるわけだと納得、こりゃすげぇや。

 遊歩道も、竹が自然に生えたのを邪魔しないように敷かれていて、やたらくねくねしてる。

「あの竹、まだちっちゃくて可愛い」

「あの筍、掘らないのかな?」

 なんて話しながら歩いている内に、目的の茶屋に着いた。

 お店の人にチケットを渡して、赤布の敷かれた縁台に並んで腰掛けた。

 本当に竹林の目の前でお茶を飲むんだ。

 俺達の他に誰もいなくて、俺達みたいな中坊には場違い? 俺だけじゃなく皆もそう思ったはず、顔が強張ってるし(苦笑)

「お待たせしました、お抹茶と、こちらは落雁らくがんになります。ごゆっくりご堪能下さい」

 変な緊張感を持ったまま、お店の人からひとつひとつ受け取った。

 「作法とか、どうなんだっけ…!?」とコソコソと話しながら(苦笑)、コクコクと抹茶に口をつける。

 !

 うお、この茶うめぇ!

 どうせ苦いんだろうという先入観を持って飲んだから、予想外のまろやかさに面食らった。

「は~、おいしい~」

「ねっ。疲れが飛ぶわ~」

 俺達の間に緊張はすっかり消えて、和やかなムード。

 風が竹を撫でてザザザと鳴るのも風情で、いい気分でそれを聞きながら、茶菓子の落雁を口に入れてひと噛みした。

「!!」

 なんじゃこりゃ!?

 初めての味に思わず片手で口を塞いだ。

 平然とコリコリと噛み砕く女子3人、俺の横で俺と同じ様にこの味に身悶えてる樹深と丸山。

「ちょっとなにー? もしかして、落雁ダメなの?」

「やだー、ちゃんと食べてよ。ほんともう、男子ってお子様ねー」

 小林と浜野にけちょんけちょんに言われて返す言葉もない俺達を、見ないフリをしながら柏木が肩を揺らして笑いを噛み殺していた。





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