悠の詩〈第1章〉

72/83ページ

前へ 次へ


 お弁当をたいらげると、俺達はK倉文学館を後にした。

 最寄りのH谷駅まで歩いて、いよいよ丸山渇望のE電に乗り込む、までが実は少し大変だった。

 丸山のテンションが、これまでもかなり高かったけど、E電の車体を見た途端興奮度MAX。

 何枚もシャッターを切って、「僕とE電を一緒に写して!」なんてえらい強気に言ってきて。

 こんな丸山、学校じゃ絶対見れないから、呆れるよりも面白過ぎた。丸山のお願いにはいはいと付き合ってる間に、1本逃した(笑)

「すみませんでした…」

 我に返ってシュンと謝る丸山にも、全く怒りが沸かなかった(笑)

 そんなこんながあって、やっとスタート地点のK倉駅に戻る。時間は13時を大分過ぎていた。

 ここからバスで、また乗車券で乗り込んで、次の目的地のH国寺の近くらしいバス停で降りた。

「あれ、どこだよ」

 それらしい佇まいも無い、案内板も見当たらない。降りるバス停間違えた? と思ったら、「こっち」と柏木が迷いなく道路を横断していく。

 慌てて俺達も車に気を付けながら渡って、道路と並行して流れている小川も越えて、どんどん奥へ入っていく柏木に必死でついていった。

「なんで、はあ、道知ってんだ」

 少し息を切らしながら、やっとのことで追いついた柏木に聞いてみる。

「着くまで結構分かりづらいからって聞いてたから…前もって教えて貰った」

 そういや、知り合いが勧めてたとかなんとか言ってたよな。

「それって、また劇団の? もしかして、環…」

「残念でした、別の人。男の人だし。はあ、何でもかんでも環奈さんに結びつけないでくれるかな…」

 また呆れた顔で俺にそう言った頃に、H国寺の入口に着いた。





72/83ページ
スキ