悠の詩〈第1章〉
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丸山の言った通り、大仏様の所から出たのが11:30手前で、たった二つのポイントで午前をほぼ潰したようなもん。
次のH谷寺はわりと近くて徒歩10分。その向かう道の途中で、香ばしいにおいが鼻をくすぐった。
「あっ! ねえねえ、ここってバスガイドさんが言ってた、たこせんべい屋さんじゃない!?」
小林と浜野が先頭を歩いていた丸山を追い抜いて、いいにおいの出所まで小走りしていった。
そこは小さく行列が出来ていて、お店のおじさんが汗をかきながら生ダコをプレスでキュッと潰して、熱々できたてのたこせんべいをお客に渡していた。
俺のおなかがキュ~っと鳴って、メシ時なんだから仕方ないや(笑) もう少しすれば弁当にありつけるけど、我慢出来なくてたこせんべいお買い上げ。
俺はフルサイズ、でっかいのを買ったけど、他の皆はハーフサイズをちびちびかじってた。
「おいおい、女子はともかく…樹深、丸山、育ち盛りの男子がそんなんでいいのかよ~」
バリバリ頬張る俺に二人は苦笑い。
「しーらない」と柏木の声が聞こえた気がして、なんのこっちゃと思ったら、すぐにその言葉の意味と後悔を知ることになる。
「ほらぁ柳内! 早く食べちゃいなさいよ、お寺の中で食べ歩きなんて行儀が悪いんだからね!」
H谷寺に到着した所で、俺はまだたこせんべいを食べきれなくて、寺の前で女子達にギャーギャー言われて、途中むせて粉を吹きながらも完食した。
せっかくの見晴らしのいい高台からの景色も、この寺名物の観音様も、立派に咲き誇っているアジサイたちも、せんべいに水分取られて口ん中がカラッカラに渇いたせいでちゃんと堪能できなかった。
そんな俺の気も知らないで、すぐそこに見える海がキラキラ輝いていた。
曇り空なのにそう見えるのは、俺のよく知っている海がきったないからだ。
俺の町の海とここの海は繋がっているはずなのにな。
物思いに耽っていると、「さあ次行こう」また腕時計を見ながら丸山が俺達を先導した。
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