悠の詩〈第1章〉

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 まあ折角ここまで頑張って歩いて来たんだし、と丸山の提案には皆賛成で、正しいお参りってヤツをやってみることにした。

 神妙な面持ちで境内社を回った後、奥宮に入ると更に気持ちが引き締まる。

 崖の中の洞窟、天井から吊るされた幾つもの千羽鶴に圧倒されながら、俺達は指定の場所にろうそくとお線香を灯した。

 そしていよいよ銭洗い。

 ザルにお金を乗せて、柄杓で湧水を三度掛ける。

 皆が小銭だらけの中(俺はほぼ10円以下)、柏木だけがお札を何枚か乗せて、端っこにちょっぴり水を掛けた。

「わあ柏木さん、そんなに?」

 小林と浜野がびっくりした眼差しを向けると、柏木は困った顔をしながら、

「いや…知り合いの人達に頼まれて、仕方なく(苦笑)」

 と言った。

「もしかして、劇団の人ら?」

 横一列に並んだ中で俺が一番端、その隣が柏木だったので、他の皆には届かないような声で聞いてみた。

「ん。環奈さんとか士郎さんとか」

「えっ環奈さん」

 あの綺麗なヒトを思い出して、また頬に熱が集まる。

「環奈さんが、ナニ」

「え、あー、元気にしてる?」

「まあ、元気にしてるけど。キミって…まあ、いいけど」

 かなり鋭い一瞥を柏木から食らったけど、それ以上は何も言われなかった。





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