悠の詩〈第1章〉
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ちょっと抜けるねごめんね、と律儀にことわって、樹深は俺に向き直った。
「春海ちゃん、誰と来た? なんか、お父さんお母さん揃って来るとこが多いよね。うちは母さんだけだけど」
「だーかーらー、ちゃん付け禁止!
俺もかあちゃんとだよ。とうちゃんは仕事。
樹深、お前のねーちゃんは来てねえの?」
俺の質問に樹深は若干目を丸くして、はっと息を吐いた。
「姉ちゃん? 来るワケないでしょ、もう高校始まってるんだから」
「ちぇーっ。久しぶりに会いたかったなぁ」
樹深の素っ気ない返事に、俺は口を尖らせた。
樹深のねーちゃん、
最後に会ったのいつだったかなぁ。家族で会う時も、樹深はいても梓さんは友達と約束があるとかでいない事が多かった。
密かに俺の初恋の人だったってコトは、ナイショ。
「新入生の皆さん、今から教室の方へ移動します!
1組から順に昇降口へ、自分の下駄箱を探して上履きに履き替えて、教室に入って下さい!
入りましたら、机が出席番号順に並んでます、机の右上に名前が貼られてるので、間違えずに席に着いて下さい!」
しばらくして、男の先生が声を張り上げて俺達に伝えた。
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