悠の詩〈第1章〉

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 旧駅舎跡だとかいう小さな時計台がひっそりと佇む広場に到着、広場というけどすっげぇ狭い。

 全クラスが留まると私電の駅前を塞いでしまうから、順次各クラスで担任がさらっと注意事項を伝えて、すぐに班別行動に移させた。

 3組が散り散りに出発した所で、俺達4組が広場でコタ先生を囲う。

「班長、バスで配った一日乗車券は人数分あるな?
 くれぐれも失くさないように。各自で持つもよし。誰か代表で管理するもよし。
 チェックポイントで弁当を受け取るのも忘れるなよ。
 ペース配分もしっかりな…ゴールのT岡八幡宮には14時半までに着くように、これもきちんと守ってくれ。
 俺を含めて各担任と副担任で10人、皆が通るコースを巡回しているから…困った事があったらすぐに言うように。
 あと何かあったかな…大丈夫かな。
 よし、それじゃあ皆、気を付けて行ってこい!」

 コタ先生の号令で、班ごとに最初の目的地へ散っていく。

 私電に乗り込む班、バスに乗る為駅を挟んだ向こうにあるターミナルへ行く班…それらを恨めしげに見つめる俺達の班。

「さあ、僕達は頑張って歩かなきゃ。
 乗車券は電車に乗る時に渡すから、今は僕が全部預かるね。
 まずはZ洗弁天へ…こっちだよ」

 丸山の誘導で、俺達だけ駅から反対方向へ離れていく。

「なあ~、丸山。Z洗弁天までどんくらい掛かるの」

「早ければ20分ちょい。でも、着くまでずっと上り坂らしいから…30分は覚悟して」

 うえぇ~! 初っぱなからそんな? 大なり小なり俺達はげんなりな声を上げた。

 でも、このコースで行くって決めたのは俺達全員だから。投げ出す訳にもいかねぇし。

 なだらかだけどどこまでも続きそうな坂を、俺達は苦笑いしながら歩いていくのだった。





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