悠の詩〈第1章〉

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 遠足当日はすっきりしない空模様だったけど、降水確率は30~40%ほどだったので、中止になる心配はなかった。

「海が近いと雨が降りやすいからな、念の為折りたたみ傘は持っといた方がいいかもな?」

 というコタ先生の忠告を、一体何人が聞き入れたんだろう。俺は入れなかった(笑)

「皆さんは今日はどこを回るんですか? よかったら教えて下さい(ニッコリ)」

 自己紹介の後でバスガイドさんがそう聞いてきたから、それぞれの班でコースを言い合う。

 それを聞きながらガイドさんは、○○へ行く途中においしいたこせんべい屋さんがありますよとか、色々プチ情報を教えてくれた(笑)

 そうしている内にもう到着した、K倉には30分もあれば着く。

 300円までっていう制限付きのおやつを少しばかりつまむ暇もなく、

「皆さん、お気を付けていってらっしゃい(ニッコリ)」

 とガイドさんに見送られながら、俺達はバスを降りた。

「全員降りたか~? ここからK倉駅の広場まで少し歩くからな、ちゃんとついてこいよ」

 コタ先生が手旗を掲げて先頭を歩くのを、俺達は男女一列ずつでついていく。

 順番は自由だったので、俺と樹深と丸山は固まって一番後ろを歩いた。

 女子の最後は由野と柏木、そういやこの二人、バス降りるのもノロノロだったな。

「おーい。シャキッと歩けよ。後ろのクラスに追い抜かれるぞ(笑)
 由野、前の方で班の奴らが呼んでたぞ」

 特に柏木が、あくびをしながら遅いので、俺は由野と入れ違いに柏木の後ろに回って背中を押した。

 おわっとっと、少しだけ早歩きになったけど、それでも柏木のあくびの連発は止まらないし、みんなとの間がどんどん広がる。

「オマエ、なんだってそんな眠そうなの」

 もう押さないでいい、と言われて柏木の横を歩きながら聞く。

「ごめんごめん…バスでもちょっと寝たんだけど、全然睡眠足りないや。
 昨日は劇団の練習がてっぺんまで回って…0時過ぎたって事ね。
 あー、皆からK倉土産頼まれちゃったから、忘れずに買ってかないとなぁ…」

 眠気まなこを擦りながら、柏木ははっきりしない口調で言って、もうひとつ大きなあくびをした。





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